「私は警視庁捜査一課の綾敷（あやしき）だ。こちらの女性は富久見（ふくみ）警部補。もう知っているとは思うが、校内で起きた事件について調査をしている。ご協力いただきたい。」男はそう言うとボクたち5人をじっくりと見回す。

「へぇ～今回は君たちが容疑者なんだね！私じゃなくて！」場の空気を換えるような明るい声と共に、綾敷警部の後ろから一人の少女がぴょこんと飛び出してくる。まぶしい笑顔のその少女は桜の丘高等学校「芸能科」の制服を着ていた。

「こら！六花（りっか）！邪魔をするな！」綾敷警部が少女を制止するも、少女は「いいじゃ～ん！専科が違うとはいえ、ウチの学校で起きた事件なんだし！」と言って部室やF5メンバーの携帯を覗き込んでは「ふむふむ」と首を縦に小さく振り、気になる点があればボクたちに質問を投げかけて来た。

「六花」という名前は聞いたことがある。事件に巻き込まれては容疑者となっていつも警察のお世話になる芸能科の有名人「早乙女六花（さおとめりっか）」。彼女は事件に巻き込まれたのち、自分で事件を解決して無実を証明することから「崖っぷち少女探偵」と呼ばれているらしい。

ボクたちはそんな六花の質問に答えつつ、話し合った結果を綾敷警部に伝えると、六花が割って入ってくる。そして、また六花は「ふむふむ」と相槌を打つと「なるほどね……うん、そうね。恐らく越乃くんが犯人だと思うわ」と言った。

「越乃くんの手には良く見ると傷があるわね。現場のロッカーの中にあったハンガーには金具の部分に少し血がついていたの。鑑定すれば一発だけど、きっと死体を入れる時に引っ掛けたんだと思う。あとは、スマホの履歴がちょっと変かな？」六花はそう言うと、その場の皆から見える位置に移動し、くるりと振り返って得意げに話し始める。

「越乃くんは、恋沼くんと18時10分くらいに会ってそのまま帰っちゃったんだよね？待ち合わせ時間より早くない？普通、待ち合わせ時間までは待つんじゃないかな？……まあ、死んでいることを知っていれば、帰っちゃうかもしれないけど！」

越乃くんの顔がみるみる青くなっていく。

六花は更に、親指と人差し指を顎に沿え、ポーズを決めると、続けて推理を披露する。

「それに今日の朝早く、母津木くんに生徒会室から出て来るのを見られているよね？何をしに行ったのかな？八条くんが落とした生徒会室の鍵を届けに行ったんだよね？生徒会室って鍵2本しかないんでしょ？1本は比呂さん『忘れた』って言っていたみたいだし、実際彼女の家で発見されたから、八条くんが持っている鍵が無いと昨日は生徒会室はそもそも開けられないんだよね。越乃くんが鍵を拾って朝、生徒会室に鍵を返したとしたら、昨日生徒会室に最初に入れたのは越乃くんってことになるよ？もちろん、誰かが鍵を開けたあとに、鍵を拾った可能性もなくはないけど……帰宅した時間の不自然さも考えて、少なくとも死体を見ているとすれば……私は越乃くんが一番怪しいと思うんだけどどうかな？」

六花の言葉を聞いて、綾敷警部と富久見警部補も越乃くんに厳しい視線を向ける。

「キミには署まで同行願おうか？他の子たちはこの場でもう少し話を聞かせてくれ。富久見警部補、あとは頼んだ」綾敷警部はそう言うと、越乃くんを連れて出て行ってしまった。

富久見警部補は「ふぅ」とひとつため息をつくと、明るい表情で振り返り「そういえば、なんかみんな悠長にラブレターの話とかしてたんッスよね？六花ちゃん、そっちはどうッスか？」と言う。この場の雰囲気を和らげようとしているのか？それともただ空気が読めないだけなのか？富久見警部補はラブレターの話を蒸し返した。

「えー、フクミちゃん……もう、ラブレターとかどうでもよくない？まあ、答えをチャチャっと言わせてもらえば、母津木くんが書いたものでしょ？内容は野球部顧問の丸子先生宛て。それが比呂さんの靴箱に入れられただけだと思うな。大方、ラブレターを受け取ったものの、その気持ちに応えられないと思った丸子先生が母津木くんの靴箱に返して、それを見た誰かが母津木くんの靴箱の隣にある比呂さんの靴箱に移したんでしょ。男女で同じ出席番号だと靴箱が隣になるから、移動先が比呂さんの靴箱だったのは、まあ、たまたまかなぁ？移した理由まではわからないよ！」

六花がそう言うと、「六花ちゃんは恋の病と無縁ッスからねぇ」と富久見警部補が笑いながら言い放つ。一瞬、和やかな空気が場を覆うものの、すぐに皆現実を思い出し、沈黙が続く。

どうしてこうなってしまったのだろうか？親友と過ごす学園生活がずっと続くと、きっとみなそう思っていただろう。ボクも「ケンタロウにどう説明すれば良いのか？」家に帰るまでに考えをまとめなければならない。まだまだ今日は始まったばかり。幸い、考える時間だけは用意されていた。

「ブー……ブー……」

富久見警部補のスマホが着信を知らせる。

「はいもしもし富久見ッス！……え？野球部の部室で顧問の先生の死体が見つかった？もう、なんなの！カンベンして欲しいッス！」

— END —