ボードゲームの刷り部数とかリソース不足とかの話

最近、エラッタの話などで盛り上がっているボードゲーム業界ですが、こういった話は、国内でもっとボードゲームの初回出荷量が増えれば(見込めれば)メーカーも和訳に割く費用(人件費)が確保できて、少しずつ良くなっていくものなんじゃないかなと思っています。

では、メーカーの初回出荷量はどうすれば上がっていくのか?

もう15年くらいまえになりますが、私は出版営業をしていて、最終的な部決会議にも出席(書記としてですが)していたので、そこから見えてきた話をつらつらと書いてみたいと思います。
ただ、なんせ勤めていたのは15年まえの話で、出版不況に片足突っ込んでいたとはいえ、まだ今に比べれば格段に景気が良かったときの話です。出版業界の今とはリンクしないでしょうし、書籍や雑誌はある程度返品も出来る商品なうえに、問屋(取次)はシステマチックな商品振分けを行うので、その点でもボードゲームとは完全に同じ流れになることは無いと思います。

とはいえ、似た状況は多々あると思いますので、自分の頭の中の整理ついでに書いてみようと思います。前述の内容(ブランクあり)を踏まえたうえで流して読んでいただければ幸いです。(段落とか文字の大きさ、色など見やすくするとか一切考えていないので、ホント、適当に流してください!)


現在のボードゲームの初版数は、メーカーであれば大体1,000部~1,500部の間で刷っているのではないかな?と思います(小箱などは初版2,000部以上もあると思いますが)
15年前の例で書かせていただくと、私が勤めていた出版社(そこそこ大手です)の初版最低部数は3,000部でした。

ボードゲームとは単価が違うので、3,000部刷ったところでボードゲームの1,000部より製造原価は安いかと思いますが、この「初版最低3,000部」というのは「3,000部売れる商品だからこの数刷る」というわけではなく、「全国の書店に配本するためには最低これだけ必要」という数です。なので、単価云々はあまり関係なく、1冊1,500円の書籍だろうが、600円の文庫だろうが、初版最低部数は3,000部でした。もちろん、売れそうな書籍は初版で5,000部、6,000部と刷ります。シリーズ物で実績があれば万単位ももちろんあります。

雑誌であれば、コンビニや駅売りなどもあるので、初版の最低部数は2倍くらいだったと記憶しています(書籍の営業だったのでこの辺りは曖昧です、すいません)

何度も書きますが、初版最低部数は「販売予測数」ではなく、「販売店にある程度行き渡らせるために必要な最低数」つまり、販売チャネルが多ければ多いほど、この初版最低部数は上がっていく仕組みです。

メーカー(出版社)としては、どこに卸しても利益は変わらないので(細かくは変わる可能性はあります)、この初版数が確保できる状況が出来ればそれで潤います。

ただ、書籍に関しては前述したように返品があるので、そこまで単純(卸せば利益)な話ではないのですが、書籍の取次(問屋)は過去の実績から販売数を予測して配本するシステムが組まれていますし、配本が少ない書店でもキャンペーンなど協力的な店舗で売上が見込めるのであれば、出版社から「指定配本」という形で取次に依頼して、指定した店舗に配本をしてもらうこともできます。そうやって、なるべく返品を抑える方策をしたうえで、必ずしも全店に1冊ずつ配本されるわけでなく配本0の店舗もあるなか、3,000部が最低数と決められていました。

話を戻して、故にボードゲームに於いても初版最低部数を増やしていくためには、販売チャネル(取扱店)を増やすことが近道かと思いますが、ここ数年、ボードゲームカフェは増えていて、カフェの傍ら販売もするような店舗や、大手量販店へのコーナー進出は若干増えているものの、純粋な店舗はあまり増えていない印象があります。いや、それでも買える環境は広がっていて凄いことかとは思いますが、問題もあります。激安店の登場です。

激安店の何が問題なのか、結論から言えば「注文が集中すること」です。

こと、初版部数を増やそうとするうえでネックになるのは、ごく少数の店舗が初回販売数(初回発注数)の多くを占める状況です。

分かり易く極端に例えれば、初回注文で激安店1店舗(1社)から500部、他の問屋や細かい店舗から集めた500部の注文があって合計1,000部の受注があるのと、100店舗から各10部ずつ注文があって合計1,000部の受注になるのでは、同じ1,000部でもリスクが全く違います。1店舗に依存するということは、その1店舗から受注が確保できないリスクを考えなければなりません。逆に、100店舗からコンスタントに受注があるなら、そこから1店舗2店舗注文がなくとも大きなリスクにはならないと考えられます。

もちろん、これはリスクの考え方の話なので実際に注文がどうなるかは未知数(一斉に100店舗どこも注文してこないリスクが無いわけではありません)ですが、卸先が多い程、初回発注数は担保でき、刷り数に対して余剰在庫のリスクは減ると思います。(逆に欠品による機会損失のリスクが増えることは予想できますが、メーカーに直接的な金銭損害は与えない&それこそ次のステップに進むための道であるため、説明は省略します)

1店舗ロスのリスクが大きいとなれば、初版部数は増やせません。実際に商品によって初回受注数にかなりムラが出ていると思います。逆に、1店舗のロスのリスクが軽微であれば、取り扱い店舗が増えただけ初版部数を増やす判断もし易くなります。各店舗が少しずつでも注文してくれればある程度の受注量を確保できるため、より受注が安定するからです。ケースとして全くイコールではありませんが、書籍の初版最低部数が多かったのは、この安定(どころか3,000部あっても配り切れない店舗数)があったからです。

もう15年も出版から離れているので、私が元居た会社も今は初版の最低部数をもっと下げているかもしれません。もしそうであれば、それは本が売れなくなったこともあるでしょうが、単純に卸先が少なくなった(取次からの要求数が少なくなった)からだと推測できます。そして卸先が少なくなった原因は、大手に売上が集中し、中小の本屋が潰れたことがひとつの原因かと思います。

更に言えば、激安店が出てくると、他の店がつぶれないまでも、同じ商品を取り扱わなかったり、取り扱っても極端に初回注文数を少なくしたりし始めます。単純に売れないからです。これにより、激安店からの受注の比重が更に大きくなり、どんどんリスクも大きくなって、結局「初版1,000部より多く刷るのは怖い」から抜け出せなくなります。(例外を言えば、もっと業界が賑わって、どんなゲームでも1社から1,000部以上の初回発注が来るようになるなら話は別ですが……。)こうなると、初回部数見込みはMAX1,000部から増えないわけですから、事前に発生するルールライティングや校正業務などの費用に関して増額も難しくなり、現状維持から抜け出せません。悪循環です。

また、これは一般的なことでもないですし、初版部数には直結する話でもない……営業をやっていた自分の個人的な考えですが、取り扱い店舗が多いということは、「その店舗数だけ営業が居る」ことだと思っています。

商品のタイトルが増えれば増えるほど、1店舗、または1社でピックアップできる商品の数には限界が出てきます。当たり前ですが、どのメーカーも自社の商品は全て売っていきたいと考えているはずです。しかし、店舗ごとに注力できるタイトル数は決まっているでしょうから、店舗が少なければそれだけ販促の機会を得辛くなります。この点についても、激安店に売上を一点集中して焼き畑するのではなく、取り扱い店舗を増やして販路を広げていくことの方にメリットを感じます。(これは単純に販売数の底上げになると思います)

ちょっと脱線しましたが、ともあれ、まずはメーカーの利益を確保することが、エラッタをはじめとする「リソース不足によるエラー」を防ぐ近道であり、そのためには初版部数の底上げ、底上げのためには、一点集中しない(そして、店舗が増えていく或いは減らない)ことでのリスクの低減などが考えられると思います。

そんな感じで、色々課題はあるかと思いますが、徐々に解決していって、ボードゲームの市場が「初版は最低3,000部だよね」って市場に成長することを願っていますし、少しでも助力できれば良いなと思っています。(もっともっと頑張らないと……)


 

ABOUTこの記事をかいた人

世界のボードゲームが1000種類以上遊べるボードゲームカフェ、東中野「DEAR SPIELE」のオーナー。ボードゲームに関することならなんでもおまかせ!……かも? メディアの取材から、開業相談、講演会まで、なんでもご相談ください。